時を重ねて生まれる、気高い佇まい。

人形たちの清らかな美に魅せられて、描いた愛のかたち。

『小説すばる』掲載の「うつわの記憶」は、

大原の謎めいた美を閉じ込めた短編です。


中村理聖


『小説すばる』2015年12月号に掲載の

中村理聖さん作「うつわの記憶」に、

当館がモチーフとなった空間が登場いたします。

是非、ご一読ください。




「物語が生まれるカフェ」

 

 コーヒーや紅茶の匂い、味、温もり。

それらが頁をめくる小説の世界や、言葉を交わしあう人達の空気に溶け込んでゆく。

緑の美しい大原に、豊かな時間を過ごせるカフェ「アピエ」がある。

店主・金城静穂さんの文芸誌『APIED』が並び、庭の蔵にギャラリースペースもあるこのカフェは、

文化サロンのような出会いの場となっている。

そこで出会ったのが人形屋・片岡佐吉さんだった。

 

 今春、三千院への道中にある古民家に、人形館「マリアの心臓」が東京から移転した。

自転車に寄り掛かる男の子の人形に迎えられ、小さな赤い橋を渡り、大原の風やせせらぎを感じながら古民家に足を踏み入れる。

すると、幾体もの人形たちが瞳を光らせ、滑らかな肌を晒す光景に出会える。

その傍らで佐吉さんは美への敬意を語り、「アピエ」での偶然の出会いにささやかな奇跡を感じた。

 

 カフェで過ごすひと時が、ゆったりと、日常を新たな世界に導く。

新人作家の私が書きたいと願うのは、そんな物語である。

 

中村理聖

 

 

自家焙煎珈琲&音楽読書空間

HiFi Cafe "NEW WORLD SERVICE" vol.17より



 

中村理聖(なかむら りさと)

福井県出身。

「砂漠の青がとける夜」で

第27回小説すばる新人賞を受賞して、

二〇一五年、作家デビュー。